東京地方裁判所 昭和45年(ワ)3718号 判決
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〔判決理由〕ところで、被告は有益費償還請求権は実質的には借家法第五条に定める造作買取請求権と同様強行法規とみるべきであるから、右請求権を借家人たる被告において予め放棄することは許されないと主張するので検討するに、造作買取請求権は、賃借人が建物に付加した造作について、特にこれが独立の存在を有し、賃借人の所有に属することから賃借人に対し投下資本を回収する便を与え、建物のほか賃借人所有の造作そのものの社会経済的価値の減少を防止するために認められたものであつて、これが規定には、右のとおり造作が独立の存在を有しこれについて借家人に所有権が帰属していることに注目して特に借家人保護のため借家法が強行法規としての性質を与えているに反し、有益費償還請求権は、借家人が建物の改良等に支出した有益費を借家人に償還せしめるものであつて、借家人が右支出によつて建物に付加した部分は独立の存在を有するものではなく、したがつて当該部分の所有権は借家人ではなく、建物と一体となつて建物所有者に帰属するものであつて、これが請求権の本質は任意法規である不当利得返還請求権に由来しているものであり、両者は経済的には賃借人の建物に対する投下資本の回収という点では共通するものの、法律的にはその根拠ないしは本質を異にするものであるうえ、造作買取請求権の場合にはその目的物が賃貸人の同意を得て付加したもの、或いは賃借人から買い受けたものに限られるのに対し、有益費償還請求権については有益費という限度があるほか、賃貸人の意思如何を問わず認められるものであり、したがつてこれを強行法規と解すると、賃貸人に苛酷な結果を強いることになり、かえつて建物賃借権の円滑な設定を阻害するおそれもあることなどをあわせ考えると、有益費償還請求権については明文の規定がないのに単に経済的には同一の作用を営むという点だけをとらてえて造作買取請求権と同様強行法規であるとみることはできず、任意法規と解するのが相当であり、したがつてこれが予めの放棄も有効であるというべきである。
(松村利教)